マイナー病気録

思えば病院とは縁の切れなかった人生。こんな感じで向き合ってきました

人にも自分にも、優しくありたいですね

おふたりとも60代の男性

 このGWの連休明けは、長いお休み明けにありがちな電車への身投げが起きたりするかもしれないね、と家族と危惧していたところだったのですが、耳に入ったのは芸能人おふたりの自死でした。

 おふたりとも60代男性。男女ともに更年期があるといいますが、個人差はあるものの若い頃とは異なり、心身ともに不調に見舞われることもある世代ですよね。本当に痛ましいことです。

 奥さん方もお名前を知られている方たちで、ご家族はつらい時間をお過ごしでしょう。おふたりを直接知る周囲の人たちもきっとそう。それだけでなく、テレビ画面を通して楽しませてもらっていた視聴者の私たちも、少なからず悲しい思いを共有していると思います。

リスクを上げない、WHOの報道ガイドライン

 どうしても有名人だと、その死は報じられてしまいます。昔は、アイドルの自殺で後追い自殺が社会問題になり、その報じ方にメディアであまり注意が払われないまま繰り返されてきたように思います。

 センセーショナルに報じられた件では、私も海外に居て写真週刊誌を日本人の知人にたまたま見せられ、その報じられ方にショックを受けたのを思い出します。

 WHO(世界保健機構)が有名人の自殺についての報じ方のガイドラインを出していますが、それに沿った報道が日本でなされていないことが、ようやく多数に意識されるようになりつつあります。実際に、厚生労働省が今回も当日の5/11に立て続けに注意喚起の文書を出していましたし、官房長官も記者会見で言及していました。

 その①は割と平易な、しかし率直な文書ですけれど、その②を見ると、厚労省の怒りが伝わってきます。赤字を交えてしっかり書かれています。その部分を引用します。

 タレントの上島竜兵さんが 5 月 11 日に逝去され、死因が自殺である可能性があるとの報道・放送が行われていることを踏まえて、本日午前中に、『自殺報道ガイドライン』に即した放送・報道をしていただくよう、依頼文を送らせていただきました。 
 しかしながら、一部のメディアにおいて、『自殺報道ガイドライン』に反する、以下のような報道・放送が行われているため、あらためて自殺報道に関する注意喚起をさせていただく次第です。 
 以下のような放送・報道は、自殺リスクを高めかねません。 
   自殺の「手段」を報じる 
   自殺で亡くなった方の自宅前等から中継を行う 
   自殺で亡くなった場所(自宅)の写真や動画を掲載する 
   街頭インタビューで、市民のリアクションを伝える 
 以上のような報道や放送は、とりわけ子どもや若者、自殺念慮を抱えている人に強い影響を与えかねません。実際に、一昨年は自殺報道の影響とみられる自殺者数の増加がありました。メディア関係者各位におかれましては、自殺報道が自殺の増加を招くことになりかねないリスクをご理解いただき、WHO『自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識 2017 年版』(いわゆる『自殺報道ガイドライン』)を踏まえた報道・放送を、あらためて徹底していただくよう、お願いいたします。 

 厚労省の言う、一昨年・・・人気俳優と女優が立て続けに自死しましたね。良く知られた方たちだったから、社会全体が影響を受けたように思います。直近の映画を見たばかりだった私もかなりショックでした。

 今回も人気者、特におひとりはお笑い芸人ですから、影響は大きくなりそうです。

 お笑い芸人さんのお仕事は、言うまでもなく人を笑わせること。それなのに、こんなに悲しくて多くの人が涙する結果は、ご本人だって自分の築き上げてきたお笑いの実績を振り返った時に心底から望むことではなかったでしょう。

 勝手ながら、「お笑いをするからには自殺だけはしてくれるな」と養成所で叩き込んで教えてほしいくらいですが、そんな判断ができない精神状態に追い込まれるからこそ自死に至るのだと聞きますから、ご本人には想像を超える辛さだったはずです。

 有名人ですから報道されることは仕方ない。でも、後追いなど、社会的にリスクを上げないように報道する責任が、メディアにはありますね。

 上記文書②では2017年版のWHO自殺報道ガイドラインからやっていいこと・ダメなことが列記されていました。

 以下、WHO『自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識2017 年版』より  https://www.mhlw.go.jp/content/000526937.pdf 

《自殺関連報道として「やるべきでないこと」》 
 報道を過度に繰り返さないこと/自殺に用いた手段について明確に表現しないこと/自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと/センセーショナルな見出しを使わないこと/写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いないこと 

《自殺関連報道として「やるべきこと」》 
 有名人の自殺を報道する際には、特に注意すること/支援策や相談先について、正しい情報を提供すること/日常生活のストレス要因または自殺念慮への対処法や支援を受ける方法について報道すること/自殺と自殺対策についての正しい情報を報道すること

ひな壇に並ぶ人たち自身が友人・知人なのに

 この文書②の「やるべきこと」では、大事なポイントだと思うのに、抜け落ちていることがありました。「クイック・リファレンス・ガイド」(メディア関係者の方へ|自殺対策|厚生労働省 (mhlw.go.jp))では明示されていましたが、それはこの2つ。

  • 自殺により遺された家族や友人にインタビューをする時は、慎重を期すること
  • メディア関係者自身が、自殺による影響を受ける可能性があることを認識すること

 厚労省の文書②では、「街頭インタビューで市民のリアクションを伝える」が問題視されていて、それはその通りなんですけれど、見かけたワイドショーでは、ひな壇に並んだコメンテーターたちが一言ずつコメントさせられていて、そのリアクションは平気で放送するのかと衝撃でした。

 何しろ、最近はコメンテーターを担うお笑い芸人さんが多いじゃないですか。芸人さんにとっては、上島さんなど、まさに仕事仲間。親しい友人でもある人もいたでしょう。だから、明らかに感情をこらえて発言している人もいました。

 家族にはインタビューしなくても、コメンテーターだからと友人に無理やりコメントを絞り出させる荒業は、見ている方がつらかったです。

 また、メディア関係者自身が影響を受けるという点でもそうなのですけれど、大きく考えれば、視聴者よりももっと故人は身近にいた存在だったはず。影響を放置するのではなく、二次受傷を考慮したケアが図られるべきなのでしょう。

 「自分のことはいいんだ」と省みずに通常の仕事に打ち込むのがカッコイイ、みたいな影響を矮小化する考え方は、他人の痛みをも軽視することにつながりかねないと、民間資格ではありますが「精神対話士」の端くれのひとりである私は思います。

 だから、竜平会のみなさん。ちょっと時間を取って集まって、みんなで涙する時間を大切にしてほしいです。オンラインでもいいですから、気持ちを共有できる人たちで話をしてほしいです。

 ガイドラインに反する報道をしているテレビ局についても記事になるようになってきたので、メディア間での相互監視が働くようになってきたのかなとも思います。

上島竜兵さん死去後に「自宅前中継」 フジ・テレ朝の報道に「何の意味があるんだ?」(J-CASTニュース) - Yahoo!ニュース

“自宅前からの生中継”上島竜兵さんの訃報を伝えるテレビ番組に批判の声 夏野剛氏「死因にニュースバリューがあると思って速報したのであれば残念だ」(ABEMA TIMES) - Yahoo!ニュース

相談窓口の紹介は必要

 報道の中で、「取ってつけたように相談窓口が紹介されるようになった」「その紹介自体が死因のにおわせになってるんじゃないの」という批判も目にします。確かに・・・と思わないでもないです。

 ただ、相談窓口があることを「そもそも知らなかった」「そんなにあるんだ」「無料でできるんだ」という視聴者は確実にいます。報道によって不安感が増したり悩みを一人で抱え込んだりしがちな方に、手の届きやすい情報をお伝えすることは大事なこと。その伝え方が、おざなり感があれば批判を浴びるのでしょう。

 そして情報が古くてもう相談を受けていない団体とか、新たに意欲的に相談を受けている団体かとか善し悪しが判別しにくい相談先情報がある中で、「どの相談先が信頼できるのか」というアップデートされた情報ニーズは高いはずですよね。

 厚労省が紹介している相談先が無難ではあるので、そこを視聴者に伝える報道はタイムリーに求められるものだと思います。

悩みはプロに相談、解決の糸口が見つかる

 「心の悩みを、相談なんかしてもどうなるものでもない。自分で乗り越えないと」と信じている方もいるかもしれませんが、最近の考え方はそうでもないんですよ。

 心の悩み、と言ってしまうから「自分が弱い」と考えてしまうのかもしれませんが、心の悩み=脳に何らかの障害が生じているもの、と考えるべきらしいです。

 ですから、脚を怪我したら手術したり薬を塗ったりして外科で治してもらうように、脳の病気は治療でしっかり治しましょう、という流れになっていますよね。今回のことでも、精神科のお医者さんがテレ朝「モーニングショー」で「鬱は治療によって治ります」と力説していました。

 自死に至る方は、多かれ少なかれ鬱になっていて希死念慮が高まり、正常な判断とは遠いところで命を絶ってしまうと聞きます。悪いスパイラルに陥らないためにも、本人や、家族など周りが、プロに相談してほしいと思っています。

 いきなり精神科に受診するのは抵抗がある場合、厚労省が紹介している信頼できる相談先は複数ありますね。電話だけでなく、メールやLINEでも相談できるようになっています。

 相談を受ける側の端にいた立場(一応、メンタルケアスペシャリストと、前述の精神対話士の資格を得て、対人支援の経験も少しあります)なので書くのですが、そういったお話を家族や友人にはなかなか切り出せないものだろうと思いますし、相談された側も「適切に返せないかも」「何を言っていいのか分からない、どうしよう!」と青くなってしまうと思います。

 でも、しかるべき相談先の支援員は、たとえボランティアでも、そういった難しい話をきちんと聞く訓練を受けているんです。相性の善し悪しはあるかもしれないので、悪かったら他をお勧めしますが、自分の中でもどうしていいのか分からない状態から真のニーズを聞き出し、整理する助けをしてくれます。

 つまり、自分の中で抱え込んでしまっていると心理的にいっぱいいっぱいになってしまいますが、相談員相手に口から言葉として発してみると気持ちにも余裕ができて、悪いスパイラルから抜け出すきっかけ、悩み解決の糸口が見つかることにもなるのです。

 「人に話してみたら考えがまとまった」ってことありますよね、ソレです。

 そうなってみれば何かに自分でどんどん気づけるかもしれません。その後、治療など取るべき行動について必要な情報ももらえます。

 「必要な情報をサーチして得る能力」は、現代に必要なスキルの1つですよね?適切な相談先を見つけてSOSを発することは、それと同じことです。恥ずかしいことでもためらうことでもなく、処世術の1つ。勇気を出して、相談する一歩を踏み出してほしいと思います。

 今回は、いつもの患者視点とは少し違った角度から、書いてみました。とにかく、人には優しく、そしてそれは自分にも・・・と思う今日この頃です。